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 忘れもしない2月15日の雨の夜のことである。

 萩庭桂太と私はTHEATRE BROOKの代官山でのライブを見終えた後に、東三丁目に移転したパピエ・ドレというお店に向かった。この連載の一周年記念パーティーの打ち合わせをするためである。飲みながらの打合せを終えて、いい気分で歩きながら、渋谷駅南口あたりまで来たときのことである。

 なんともいえない、深い音色のサックスが聴こえてきた。見れば、路上パフォーマンスにはあまり似つかわしくない、育ちの良さそうな男のコが演奏している。

 酔っぱらった私は言った。

「ああいう人が、パーティーで演奏してくれないですかね」

 すると、酔っぱらった萩庭桂太は「よし」と、猛然と突き進んでいった。そして彼の前に立ってしばらく聴いていた。

 やっぱり上手い。萩庭桂太はやおら切り出した。

「あのさ、21日の夜、空いてない? 大きなパーティーがあって、100人以上人が来ると思うんだけど、そこで吹いてくれないかな。ギャラは出せないんだけどさ、いくらでも食べて飲んでいいから」

 サックスの男のコはええっ、と驚いた顔をした。

「木曜日ですか。ええと……」

 萩庭桂太は畳み掛けた。

「オレ、カメラマンなんだけど、キャンディ・ダルファーのジャケ写を撮ったこともあるんだよ」

「ま、まじすか」

 若者らしい反応だ。しかし、いくら酔っ払っているとはいえ、路上の交渉でいきなり有名サックス奏者の名をここで持ち出すとは。ハギニワもえぐい技をくりだすものだ。しかしその男のコは「キャンディ・ダルファー」にすっかり騙されてしまった。そしてこう言ったのである。

「スケジュールを確認しますが、たぶん、大丈夫だと思います」

 2月21日。こうしてYOUR EYES ONLY一周年記念パーティーに横田寛之さんの演奏が入ることが決まったのだった。パーティーが盛り上がったのは言うまでもない。

 ところがあろうことか、この彼、実はあの綾戸智恵さんも所属する、ジャズのレーベル、イーストワークスエンターテインメントからCDも出している、本物のプロ。注目の若手ジャズ・ミュージシャンだったのである。

  • 出演:横田寛之

    1981年、岐阜県生まれ。父親が尺八、母親が三味線の師範という家に生まれ、13歳から始めたジャズを志して早稲田大学に入学、ハイ・ソサエティ・オーケストラで2年生でコンサートマスターとなる。卒業後はプログラマーの仕事と同時にプロのミュージシャンとセッションを続け、2009年からストリート演奏活動を開始。現在、ETHNIC MINORITYとゴウダヴという2つのバンドをもち、それぞれアルバムを発表してジャズ界からも大きな評価を得ている。
    http://www.gauchedavinci.com/

    ストリート・ソロ http://www.youtube.com/watch?v=V4tB_8udhV4
    ETHNIC MINORITY http://www.youtube.com/watch?v=dYYvSsN7Kzc
    ゴウダヴ http://www.youtube.com/watch?v=j8sXZIxYykE

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太

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