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 【前編】はこちら

 もちろん、今回の目的は「おしぼりうどん」を食べることではなかった。

 小松美羽は5月26日から坂城町の鉄の展示館で催される展示の仮置きに来たのであった。

 鉄の展示館は、坂城町に刀の名工がいたことから集められた日本刀を常設展示している。今回、画家が単独で展示を行うことは稀なようだ。なんでも町長以下、町をあげて小松美羽の応援体制に入っているらしい。

 彼女はそれに応え、坂城町に残る民話を研究し、過日、自宅兼アトリエで見せてくれた絵とオブジェに取りかかっていたのだった。

「『神鼠と唐猫様』という民話があるんです。人の血を吸う悪い虫が増えて父親を殺されてしまった子どもが、神様のところへなんとかしてほしいと救いを乞いにいくと、そこに白い鼠がいた。その鼠が虫を食べてくれたんですね。

 ところが虫を食べ尽してしまった鼠は、今度は作物を荒らし始めたんです。そこで困った人間たちは中国に大きな猫がいるという噂を聞いてそれを呼び寄せた。唐猫、です。唐猫は鼠を追いかけ、鼠に噛み付きます。断末魔の鼠が引っ掻いた岩から千曲川ができて、唐猫も鼠も流されます。唐猫の死体は篠の井という場所であがり、そこが唐猫神社になりました。でも鼠は見つからなかった。一度は神と崇められ、やがて人間の欲で害獣とされた鼠の魂は天に昇っていったと言われています。……その魂を、この立体で表現してみました」

 我々が彼女の自宅兼アトリエで見た緑のオブジェはその魂だったのだった。

「唐猫の魂は中国から来たので、赤にしてみました」

 うねうねとした反物のような絵の上に、彼女はその魂を置いて言った。

「これでやっと、二つの魂が天に昇るんです」

 千曲川をイメージしたうねうねとした布の絵には、松尾芭蕉が句にした坂城の月や、彼女の狛犬も描かれていた。

 激しい絵だったが、どこか神々しさもある。まっすぐに地元を愛する小松美羽は、神鼠と唐猫の死後、今やっと現れた巫女なのかもしれない。

 撮影のために、本物の千曲川に連れていってもらった。

 風の河川敷。慣れ親しんだ場所に、小松美羽はやっぱりぎこちなく立っていた。

「髪の毛、おさえてて」

 萩庭桂太がカメラを向けて言うと、彼女は無造作に頭の横に手をやった。そしてどうしていいかわからない顔をして、ボサボサな髪のまま、笑った。

 撮られることが仕事じゃない人の、やっと心ほぐれた表情。

「ボサボサなのも、いいよね」

 堤防を駆け下りるときの萩庭桂太はなぜかとても幸せそうだった。

(取材・文:森 綾)

小松美羽展覧会 神ねずみと唐猫さま

長野県坂城町 鉄の展示館
2012年5月26日(土)~7月16日(月)
http://tetsu.town.sakaki.nagano.jp

  • 出演:小松美羽

    1984年11月29日、長野県生まれ。趣味は狛犬研究、漫画や小説の創作、なぎなた(北信越3位)、水泳と幅広い。女子美術大学短期大学部卒。2004年度 女子美術大学 優秀作品賞、日本版画協会版画展 入選。2012年 小松美羽作品展「画家の原点回帰 ~ウガンダ~」(オリンパスギャラリー東京・大阪)
    http://www.miwa-komatsu.com

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクション『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)など多数。映画『音楽人』(主演・桐谷美玲、佐野和眞)の原作となったケータイ小説『音楽人1988』も執筆するほか、現在ヒット中の『ボーダーを着る女は95%モテない』(著者ゲッターズ飯田、マガジンハウス)など構成した有名人本の発売部数は累計100万部以上。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影協力:鉄の展示館 http://tetsu.town.sakaki.nagano.jp
撮影:萩庭桂太

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